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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)71号 判決 1992年10月22日

福岡県甘木市大字屋永4050番地の1

原告

株式会社渡辺組

右代表者代表取締役

渡辺忠義

同訴訟代理人弁理士

戸島省四郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

中村友之

佐藤雄紀

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和62年審判第20964号事件について平成3年1月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁のおける手続の経緯

原告は、昭和57年3月31日、名称を「コンクリート型枠締着用コーン」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和57年実用新案登録願第47465号)をしたところ、昭和62年10月27日、拒絶査定を受けたので、同年11月24日、審判の請求をし、同年審判第20964号事件として審理され、平成2年2月7日、同年実用新案出願公告第4973号をもって出願公告がされたが、登録異議の申立てがされ、平成3年1月24日、「本件登録異議の申立ては、理由があるものとする。」との決定とともに「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされ、審決の謄本は、同年3月7日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

雄ねじを表面に刻設した軸足部18と拡巾した中実の鍔部3とセパレータのねじ部と螺合する雌ねじ部2とを順に合成樹脂で一体成形して連設したコンクリート型枠締着用コーン(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  昭和55年実用新案出願公開第80441号公報に係る昭和53年実用新案登録願第163839号のマイクロフィルム(以下「第1引用例」という。)には、「一面がコンクリート型枠に当接する鍔部と、その鍔部の一面に突設した締付金具ねじ込み用のねじ部と、前記鍔部の他面に段部を介して突設したコンクリート埋没部とを金属により一体に成形し、前記埋没部にセパレートのねじ込み用のねじ孔を設けたコンクリート型枠締付用コーン」(実用新案登録請求の範囲。別紙図面2第3図参照)が記載され、従来のコーンがコンクリートと合成樹脂製の埋込部の外面と間に間隙が生じるため、防水性に劣る(4頁19行、20行)欠点を有するので、この欠点を改善したコンクリート型枠締付用コーンを提供することを目的とした旨の記載を認めることができる。

また、昭和56年実用新案出願公告第42479号公報(以下「第2引用例」という。)には、「繊維強化された熱硬化性樹脂からなる棒状体の端部周辺に、上記熱硬化樹脂に対して化学的親和性を有しかつ機械加工性の良い熱可塑性樹脂からなる被覆層が接着されるとともに、この熱可塑性樹脂部分に機械加工によるネジが形成されてなる繊維強化樹脂ボルト」(実用新案登録請求の範囲)が、昭和48年特許出願公告第37931号公報(以下「第3引用例」という。)には、「本発明はプラスチック製ボルト・・・に関するものである。・・・例えば、ポリエステル樹脂・・・等のプラスチックのみにより構成されたものが提案されている」(1欄18行ないし26行)が、昭和48年特許出願公告第37932号公報(以下「第4引用例」という。)には、第3引用例の上記記載事項と同じ事項(ただし、「プラスチック」とあるのは「合成樹脂」となる。)(1欄17行ないし24行)が、それぞれ記載されている。

(3)  本願考案と第1引用例記載の考案のコンクリート型枠締付用コーンとを比較すると、共にコンクリート型枠締着用コーンであって、かつ、中央に位置する辺りに拡巾した中実の鍔部を具え、鍔部の一面にセパレータのねじ部と螺合する雌ねじ部を有し、鍔部の他面に雄ねじ部を一体に成形して連設しているものである点で一致し、材質の点において、本願考案が合成樹脂とするのに対し、第1引用例記載の考案のコーンは金属とする点で一応相違する。

ところで、金属製のネジ、ボルトを合成樹脂をもって構成すること(あるいはその逆)は、一般にいわゆる周知慣用の材料の転換として当業者にとって技術常識であり、審判合議体においても顕著な事実である上、第2引用例ないし第4引用例の記載事項からも明白であるから、一般的に金属製のネジ、ボルトを合成樹脂製のものに置き換えること自体には困難性は認められない。

次に、これをコンクリート型枠締着用コーンの技術分野について判断すると、本願明細書において、「(考案が解決しようとする問題点)」という見出しの項で摘記した昭和55年特許出願公開第155864号公報記載のコーンは硬質ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂を使用するものである(平成2年実用新案出願公告第4973号公報3欄3行)ように、当該技術分野においても、コーン自体を合成樹脂製とすることは当業者に周知慣用のことであるから、本願考案と第1引用例記載の考案のコーンとの相違点である材質の点において、金属のものを合成樹脂のものとすることを想到することが当業者にとって困難性があるとは認められない。これを本願考案の目的とする前記の漏水の防止やコーンを金属製とした場合の当該金属部分の腐食の防止の問題の観点からみても、第1引用例記載の考案に係るコーンも防水を目的とするものであること、かつ合成樹脂に防食性があることは当業者の技術常識であることを併せ考えると、前記の困難性があるとは認められないとの判断の支障となるものでは全くない。

(4)  以上のとおりであるから、本願考案は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である第1引用例ないし第4引用例及び前記の周知慣用の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の本願考案の要旨、第1引用例ないし第4引用例の記載内容、本願考案と第1引用例記載の考案との一致点及び相違点の認定は認めるが、相違点に対する判断は争う(ただし、金属製のネジ、ボルトを合成樹脂をもって構成すること(あるいはその逆)が一般にいわゆる周知慣用の材料の転換として当業者にとって技術常識であるとの点は認める。)。

審決は、上記相違点に対する判断を誤り、もって本願考案の進歩性を誤って否定したもので、違法であるから取消しを免れない。

審決は、本願考案と第1引用例記載の考案との相違点(コーンの材質の相違)について、<1>第2引用例ないし第4引用例にも示されているとおり、金属製のネジ、ボルトを合成樹脂をもって構成すること、及びその逆に構成することは、材料の転換として周知慣用のものであり、<2>コーン自体を合成樹脂製とすることも周知慣用のものであるとして、<3>本願考案は第1引用例ないし第4引用例及び前記周知慣用の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができた旨判断している。

しかし、本願考案は、コーンをコンクリート内に恒久的に埋設させ、埋設時の防錆、防水を良好にし、かつ、コンクリート硬化後、コーンの軸足部を叩き落として使用するという新規な技術的課題(目的)を達成するため、コーンを合成樹脂で一体成形したものである。

これに対し、第1引用例記載の考案の技術的課題(目的)は、コーンを再使用できるようにすることにあり、その課題達成のため、

<1>  コンクリートに恒久的に埋設しないで、コンクリートから引き抜く非埋設型のコーンとし、

<2>  金属製ボルト・ナットを合成樹脂に埋設した従来のコーンのように製造が面倒でコストがかかり、また、コンクリート硬化後引き抜く際に合成樹脂製の埋設部とボルトが離脱してコーンの再使用が不可能になるという欠点を解消するため、金属で一体成形し、

<3>  埋設部の当り面を大きくするとコーンのコンクリートからの離脱が難しくなり、作業性が悪く引抜きに危険を伴い、また、埋設部の体積を大きくするとコーンをコンクリートから除去した後の陥没孔の補修、防水加工作業が面倒になるため、埋設部の当り面を小さくし、また、型枠を締め付けた際コーンがこれに食い込んでしまうことのないように、埋設部に比べ大きな径の鍔部を設ける構成を採用したものである。

したがって、本願考案と第1引用例記載の考案は、解決すべき技術的課題を異にし、それ故に本願考案がコーンを合成樹脂で一体成形する構成を採用したのに対し、第1引用例記載の考案は、コーンを合成樹脂をもって構成する従来技術のあることを知りながら、前記の目的を達成するために、コーンを金属で一体成形する構成を採用したものであって、両者は技術的思想を異にしている。

コーンに埋設型と非埋設型のものがあり、それが周知慣用のものであること、及び合成樹脂が防水、防錆機能を持つことは認め、また、コーン自体を合成樹脂をもって構成することが公知であることは認める(それが周知慣用のものであることは争う。)が、第1引用例記載の考案は、その従来例として示される第1図及び第2図のコーンの存在、即ち、コーンに合成樹脂が一部使用されているものがあることを知った上で、前(1)記載の目的達成のため、合成樹脂製のものとすることを排し、積極的に全部を金属素材で一体成形することを選択したものである。

そして、第1引用例記載のコーンは非埋設型のものであって、コンクリート硬化後は除去され、再使用されるものであるから、本願考案のコーンのように、コンクリート内に埋設されて防水、防錆の目的、機能を果たさせるという技術的思想はない。

しかも、第2引用例ないし第4引用例には、防蝕性、電気的特性、機械加工性、耐久性に富ませる目的の特殊な合成樹脂を使ったボルトが開示されているものであるが、これらは合成樹脂であれば何でもよいというものではなく、特定の合成樹脂の選択に特徴のある発明又は考案である。

したがって、前記<1>の材料の転換が周知慣用のものであるとしても、そして、仮に<2>のコーン自体を合成樹脂製のものとすることが周知慣用のものであるとしても、第1引用例記載の考案のコーンの材料を合成樹脂製のものとすることは、その考案の技術的思想と相容れないものであるから、特に材料の転換以上の強い利点、動機(目的、作用効果)の存在がない以上、第1引用例記載の考案のコーンの材料を合成樹脂製のものとすることを当業者が想到することはきわめて容易なことではない。

そして、第1引用例ないし第4引用例には、第1引用例記載の考案と第2引用例ないし第4引用例記載の発明又は考案とを強力に組み合わせる動機は開示又は示唆されていない。

また、第1引用例記載の考案には、本願考案のように軸足を切損させるという技術的思想はない。

これに対し、被告は、埋設型のコーンにおいてコンクリート硬化後セパレータを打ち落とすことは周知慣用のものである旨主張する。それが周知慣用のものであることは認めるが、軸足は、従来フォームタイというセパレータとは別の型枠締付金具のねじ部分であり、セパレータと軸足とは全く別物であり、本願考案のように軸足を折損させるということは本件出願当時何ら周知慣用のものではない。

更に、本願考案では、<1>全部合成樹脂素材とすることで軸足が叩き落とし易く、<2>埋設させても金属製のものに比べ防水・防錆上有利になる、<3>一回限りでコンクリートに埋設させることができるので、第1引用例記載の考案に必要な、コーンを硬化したコンクリート壁面から取り出す作業と、その取り出したコーン跡の凹部のモルタル補修作業・コーンキャップ被着作業を不要にできるという、第1引用例記載の考案に比し優れた効果を奏するものである。

したがって、本願考案は第1引用例ないし第4引用例及び前記の周知慣用の事項から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  第1引用例の開示事項

原告は、本願考案と第1引用例記載の考案は、技術的課題(目的)を異にし、後者は、本願考案と異なる課題の解決のためコーンの材質につき金属を選択し、合成樹脂を排したものであり、第1引用例記載の考案にコーンの材質を合成樹脂のものとする技術的思想はない旨主張する。

確かに、上記考案の考案者の意図は、コーンを再使用するという目的のため、コーンの材質に金属を選択したものではあるが、第1引用例には、その前提として、<1>コーンをコンクリート硬化後引き抜いて再使用するか引き抜かずにそのまま埋め込むというコーンの使用方法があること、及び<2>コーンの材質として金属と合成樹脂が存在しており、それらの間で相互に置換できることが開示されている。

第1引用例記載の考案の考案者は、コーンを再使用するという方法を選択したため、コーンの材質に金属を採用したが、だからといって、第1引用例に、<1>、<2>の事項の開示がなくなるものではない。

原告は、本願考案は、第1引用例ないし第4引用例及び審決指摘の周知慣用の事項からはきわめて容易に想到することはできないものである旨主張する。

しかし、第1引用例の開示事項は前(1)のとおりである上、本願考案の構成である<1>コーンを埋設型のものとすることも、<2>コーンの全体を合成樹脂で構成し、その防錆機能を利用することも、<3>埋め込みに合わせてセパレータの端部を折損する等により除去することも全て周知慣用の技術である。

<1>については、乙第3号証(昭和47年実用新案登録願第32185号のマイクロフィルム)の第3図は、型枠解体後の状態を示す断面図であるが、これには、コンクリート硬化後にコーンが残置されている状況が示されている。また、第1引用例には「第2図のものは、(略)コンクリート硬化後の締付金具dおよび型枠gのみを取り外しコンクリート中にそのまま埋込んでしまう。」(明細書2頁11行ないし3頁初行)との記載がある。

以上によれば、本件出願当時、コーンをコンクリート硬化後も埋め込んだ状態のままにすること、即ち埋設型のコーンは周知慣用のものであったことが認められる。

なお、コーンを埋め込んだ場合、コーンを硬化したコンクリート壁面から取り出す作業と、コーンを取り出した後の凹部のモルタル補修作業を不要にできることも、全く当然のことである。

<2>については、甲第5号証(昭和55年特許出願公開第155864号公報)に、コーンを外枠を硬質ゴム又はプラスチックで作り、軸管部を外枠と一体的に成型するか、又はインサート成形手段により外枠内に一体的に埋めこむ(3頁左上欄2行ないし6行)構成を採用することが記載されており、また、乙第1号証(昭和50年実用新案登録願第55808号のマイクロフィルム)には「従来ポリプロピレンで成形したこの種のコーンは(略)ねじ金具を埋込む必要があった。(略)この考案は、前記従来のコーンの構造を改め、金具を用いることなくプラスチックのみで成形し、(略)コーンを提供することを目的とする」(明細書1頁13行ないし2頁7行)と記載されており、更に乙第2号証(狩野春一監修「新編建築施工ポケットブック」オーム社昭和55年10月20日発行)には「堰板間隔を一定に保つ目的のセパレータとしては、金属、プラスチック、あるいは木製のコーン、または金属の座金が用いられている。」(8-18左欄本文9行ないし12行)と記載されている。

これらによれば、本件出願当時、コーン自体を合成樹脂をもって構成すること、更には、コーンの材質として合成樹脂、金属を必要に応じて選択できること、即ち相互に置換できることは周知慣用の事項であること明らかである。

また、乙第3号証(昭和47年実用新案登録願第32185号のマイクロフィルム)には「その目的は連結座体の周囲からコンクリート内部に水が浸透することを防止する(略)連結座体を提供することにある。(略)連結座体1は(略)その先端にフランジ3が設けられている。第1図(略)(B)はほぼ垂直に曲げたものであり、(略)フランジ3の周囲に、腐蝕を防止するため、合成樹脂を被覆してもよい。」(明細書1頁15行ないし2頁16行)と記載されており、合成樹脂が防食性、防錆性を有することを利用することは本件出願前周知慣用の事項であることは明らかである。

<3>については、乙第4号証(昭和49年実用新案登録願第150927号のマイクロフィルム)には、「第4図は別の実施例におけるセパレートの端部の折り取り状態を示す縦断正面図」(明細書7頁12行ないし14行)、「なお、第4図に示すように(略)セパレータ2の突出端部を折り取る際、折り曲げ力が座金6に及ぼす影響が少なくなり、(略)セパレータ2の突出端部が止め溝4部分で折り取られる。」(5頁13行ないし19行)と、また、乙第5号証(昭和47年実用新案登録願第115174号のマイクロフィルム)には「コンクリート打設后、型枠cを取除いたのち、第4図Ⅱに示すようにコンクリートhから突出している螺子部gをハンマーで打撃を与えると、螺子部gは切り溝iの部分から容易に切損する。」(明細書3頁14行ないし18行)と記載されており、これらの記載によれば、コーンの埋め込みに合わせて、セパレータの端部を外力(打ち落とし、折り取り)によって除去することができるようにすることも周知慣用の事項であることは明らかである。

原告は、セパレータと軸足とは異なるものであり、セパレータを打ち落とすことが周知慣用の事項であっても軸足を打ち落とすことは何ら周知慣用の事項ではない旨主張するが、セパレータと軸足とは一体のものとすることも別体のものとすることもできるものであり、そのいずれも、埋設型のコーンにおいて、コンクリート打設・硬化後に突出部を残置したままにせず、これを打ち落とすことは施工上の余りにも自明・常用の手段であり、原告の主張は何ら理由がない。

また、原告は、本願考案の効果が第1引用例記載の考案より優れている旨主張するが、原告が本願考案の効果と主張する点は、全て当業者に周知自明のことにすぎないものである。

なお、原告は、第2引用例ないし第4引用例記載の発明又は考案のボルトの材質である合成樹脂が特殊なものである旨主張するが、本願考案の合成樹脂の種類は特定されていないのであり、審決の引用した第2引用例ないし第4引用例記載の発明又は考案のボルトの合成樹脂が特殊なものか否かは本件に全く関係のないことである。

以上によると、本願考案は第1引用例ないし第4引用例記載の発明又は考案及び前記の周知慣用の事項から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、審決の判断に何ら誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、審決の第1引用例ないし第4引用例の記載内容、本願考案と第1引用例記載の考案との一致点及び相違点の認定は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告の主張する審決の取消事由について検討する。

1  成立に争いのない甲第7号証(平成2年実用新案出願公告第4973号公報)及び甲第8号証(手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のようなものであると認められる。

(1)  技術的課題(目的)

本願考案は、コンクリート壁、コンクリート柱等コンクリート構造物を構築する際におけるコンクリート型枠の間隔を維持固定するためのコンクリート型枠締着用コーンに関する(公報1欄8行ないし11行)。

従来、コンクリート型枠締着用コーンは、内部にセパレータ、軸足等と螺合させるため、ネジ部を刻設した貫通孔を設け、しかも型枠と当接する端部を拡巾して広い衝接面を形成する構造であった。この従来のコーンをセパレータに螺合して軸足ナット等を使用して型枠を間隔保持した状態でコンクリートを打込み、コンクリート固化後において軸足ナットをはずしたり、あるいは、コンクリート壁面より突出したセパレータ部分を砕き落とすものであった。しかしながら、コンクリート内の液の浸透、セパレータ外周におけるブリージング現象による空隙のため、コンクリート内外の水圧差によって内部に貯った水・液あるいは埋設した外側地盤水・雨水がコーンの貫通孔、セパレータ外周空隙等を介して移動し、漏水するばかりか、セパレータ、コーンの金属部分を腐食させるという問題点が発生していた(同欄13行ないし2欄2行)。

また、このコーンでは、軸足は別体となっていて、軸足を別個用意してコーンに螺着する作業が必要で手間がかかるものとなっていた(同欄15行ないし17行)。

本願考案は、かかる問題点を解決し、漏水を少なくできるとともに、コンクリート型枠締着が迅速にでき、また、錆もなく、コンクリート固化後の後処理が簡単にできるという実用的なコンクリート型枠締着用コーンを提供するものである(同3欄22行ないし25行、手続補正書別紙初行ないし3行)。

(2)  構成

本願考案は、前記の技術的課題(目的)を達成するため、本願考案の要旨とする構成を採用した(公報1欄2行ないし5行)。

(3)  作用効果

本願考案は、前記の構成を採用したことにより、セパレータ軸足の螺合部からの漏水は全くなく、またコーン外周からの漏水も鍔部によって大巾に抑えられるとともに、軸足部をコーンに設けているので軸足を別個に用意してコーンに螺着する必要もなく、型枠締着作業が迅速にできるという効果がある(同4欄29行ないし34行)。更に、本願考案のコーンは合成樹脂製であるので、コンクリート埋設後におけるコーンの錆による洩水は全く発生せず、また、軸足部は金属軸足に比べ比較的に打ち落とし易く、しかもコーンの雌ねじ部・鍔部をコンクリート内に埋設させたままでよく、コーンを取り出してモルタルを詰めたり、キャップを取付ける等の後処理が不要にできる。加えて、合成樹脂製であるのでコンクリート肌色に合った色のコーンとすることが容易である(手続補正書別紙5行ないし末行)。

2  第一引用例記載の考案の要旨は審決の認定のとおりであるが、成立に争いのない甲第1号証(第1引用例)によれば、第1引用例には、その技術的課題(目的)及び作用効果に関して次のように記載があることが認められる。

「本考案は、建築工事におていコンクリートを打設する際に、相対向するコンクリート型枠を締付けるコーンに関するものである。

従来のこの種のコーンには、一般に第1図(注-別紙図面2第1図)に示すようなものと、第2図(注-同第2図)に示すようなものとがある。すなわち、第1図のものは合成樹脂により中空状の円錐台形状に形成したコンクリート埋設部aと、一端にセパレートbへのねじ込み用のねじ孔cを設け、他端に締付金具dねじ込み用のねじ部eを設けた金属製のボルトf(または金属製ナット)からなり、(略)コンクリート硬化後締付金具d及び型枠gを取り外してからコンクリートより引き抜いて再び使用する。

また、第2図のものは実公昭52-51713号の型枠用合成樹脂製コーンであって、合成樹脂により段部hを介して肉厚部iと薄肉部jを形成した中空状の埋込部kと、金属製のナット1とからなり、(略)コンクリート硬化後締付金具dおよび型枠gのみを取り外してコンクリート中にそのまま埋込んでしまう。」(明細書1頁12行ないし3頁初行)

「前者は合成樹脂製の埋没部a中に金属製のボルト(またはナット)を組込んだものであるから、製造が面倒でかつコストが高く、しかもコンクリート硬化後ボルトf(またはナット)にスパナや電動工具などをセットして引き抜く際に、埋没部aとボルト(またはナット)との間に多大の力がかかって埋没部aとボルトf(またはナット)が離脱することが良くあり、離脱してしまうと再使用することが不可能となり、廃棄処理して捨てなければならず甚だ不経済である。(略)また、埋没部aの体積が大きくなると、コーンを引き抜いた後にコンクリート面にできる陥没孔が大きくかつ深いので、この陥没孔を補修したり防水加工したりする作業は非常に面倒でかつ困難であり、しかも、多量の材料を使用する必要があり、しかもコンクリート表面より数ミリ落ち込んだ凹部(化粧穴)を形成する際には高度の技術、熟練を要するため、陥没孔の補修、防水加工作業がさらに面倒かつ困難になる。(略)

また、後者は、同じく合成樹脂製の埋込部k中に金属製のナット1を組込んだものであるから、製造が面倒でかつコストが高い。しかも、埋込式のものであるから、再利用できず単価的には非常に高価になり、さらにコンクリートの硬化に伴ってコンクリートと合成樹脂製の埋込部kの外面との間に間隙が生じるため、防水性に劣りかつコンクリート面の美感が損なわれる。(略)

本考案は、上述の諸欠点を改善したコンクリート型枠締付用コーンを提供せんとするものである。」(同3頁2行ないし5頁11行)。

「以上の実施例(注-別紙図面2第3図ないし第6図)からも明らかなように、本考案のコンクリート型枠締付用コーンは、金属により一体に成形したものであるから、製造が容易でコストが安価であり、さらに耐久性に優れて再使用することができ大変経済的である。

しかも、一面が型枠に当接する鍔部の他面に段部を介して埋没部を突設したので、鍔部を大きくすることにより型枠を締付た際に鍔部が型枠に食い込むようなことはない。

さらに、鍔部において型枠の締付圧を受けるようにしたので、埋没部をできる限り小さく成形することができる。従って、コンクリート硬化後比較的小さい力でもって引き抜くことができ、特に高所において重い電動工具を用いず安全に引き抜き作業を行うことができる。また、引き抜いた後コンクリート面に形成される陥没孔は小さく浅いので、補修、防水加工を僅かな材料でもって非常に簡易に行うことができる。特に、コンクリート面より数ミリ落ち込んだ凹部(化粧穴)を形成する場合、その凹部(化粧穴)が鍔部に対応するので、埋没部のみを補修するだけで簡単に凹部(化粧穴)を形成することができる。」(8頁5行ないし9頁6行)。

第1引用例の前記記載からすると、第1引用例記載の考案のコーンは、従来、コーンにその一部を合成樹脂をもって構成した埋設型(第2図)と非埋設型(第1図)のものがあるところ、経済性を考え、再使用することができるように非埋設型のものを採用し、耐久性を増すため、金属で一体的に成形したものであると認めることができる。

3  コーンを埋設型又は非埋設型とすることが周知慣用のものであること及び合成樹脂の防錆の機能を利用することが周知慣用のものであることは、原告も認めて争わないところである。

また、原告は、コーン自体を合成樹脂製のものとすることが公知のものであることは認めながら、周知慣用のものであることは争っている。

しかし、成立に争いのない甲第5号証(昭和55年特許出願公開第155864号公報)によれば、同公報には、コーンを外枠を硬質ゴム又はプラスチックで作り、軸管部を外枠と一体的に成形するか、又はインサート成形手段により外枠内に一体的に埋めこむ(3頁左上欄2行ないし6行)構成を採用することが記載されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第1号証(昭和50年実用新案登録願第55808号のマイクロフィルム)によれば、同実用新案登録願に添付された明細書には、「従来ポリプロピレンで成形したこの種のコーンは(略)ねじ金具を埋め込む必要があった。(略)この考案は、前記従来のコーンの構造を改め、金具を用いることなくプラスチックのみで成形し、(略)コーンを提供することを目的とする」(明細書1頁13行ないし2頁7行)と記載されていることが認められ、更に成立に争いのない乙第2号証(狩野春一監修「新編建築施行ポケットブック」オーム社昭和55年10月20日発行)によれば、同文献には、「堰板間隔を一定に保つ目的のセパレータとしては、金属、プラスチック、あるいは木製のコーン、または金属の座金が用いられている。」(8-18左欄本文9行ないし12行)と記載されていることが認められる。

これらによれば、本件出願当時、コーン自体を合成樹脂をもって構成することは周知慣用の事項であること明らかである。

また、審決が認定するところの、金属製のネジ、ボルトを合成樹脂をもって構成すること(あるいはその逆)は、一般にいわゆる周知慣用の材料の転換として当業者にとって技術常識であること、このことは第2引用例ないし第4引用例の記載事項からも明白であること、したがって、一般的に金属製のネジ、ボルトを合成樹脂製のものに置き換えること自体には困難性は認められないことについても、原告は認めて争わない。

なお、この点に関し、原告は、第2引用例ないし第4引用例記載の発明又は考案の合成樹脂のボルトは、合成樹脂であれば何でもよいというものではなく、特定の合成樹脂の選択に特徴があるものである旨主張するが、審決は、第2引用例ないし第4引用例を、ただ金属製のネジ、ボルトを合成樹脂をもって構成すること(あるいはその逆)は、一般にいわゆる周知慣用の材料の転換として当業者にとって技術常識であることの根拠として挙げたものであり、その点が技術常識であることは原告も認めて争わないところであるから、この原告の主張につき検討し判断を加える要はない。

4  前2認定の第1引用例の記載からすると、第1引用例には、コーンには埋設型と非埋設型があること及びコーンの材質に金属の他合成樹脂を用いることができることが開示されているものというべきである。

そして、このことは、前3で認定したとおり、周知慣用の事項でもある。

本願考案がコーンをコンクリート内に恒久的に埋設させる埋設型のコーンにおいて、コンクリート型枠締着を迅速に行い、埋設時の防錆、防水を良好にし、かつ、コンクリート固化後の後処理が簡単に行えるという技術的課題(目的)を達成するため、コーンを合成樹脂で一体成形したものであることは、前記1認定のとおりであるが、第1引用例には、前2認定の技術的事項が開示されており、しかも一般に合成樹脂が防水・防錆機能を持つこと及び埋設型のコーンにおいて後述のようにコンクリート固化後の後処理としてセパレータを打ち落とすことが周知慣用の事項であることは原告の認めるところであるから、本願考案の技術的課題は格別新規なものではなく、第1引用例及び従来周知慣用の技術的事項から当業者が予測し得るものにすぎない。

原告は、第1引用例記載の考案は金属製のコーンを採用したもので、合成樹脂製のものを排除したものである旨主張するが、前2、3認定の第1引用例の記載や周知慣用の事項からすると、コーンの材質を何にするかは、埋設型、非埋設型の別や経済性、耐久性等を考慮して当業者が適宜に決定できる設計事項であると認められ、第1引用例記載の考案においてコーンの材質に金属を選択したのは、コーンを非埋設型として再使用するために耐久性を重視した結果にすぎない。その選択は、コーンには埋設型と非埋設型のものがあること及びコーンは金属、合成樹脂のいずれをも用いることができることが前提とされているものであるから、第1引用例は、埋設型のコーンにおいてその材質に合成樹脂を用いることを何ら排除しているものではなく、原告の主張は理由がない。

そして、審決が本願考案と第1引用例記載の考案との一致点として認定しているとおり、第1引用例には材質の点を除き本願考案のコーンと構成が一致するコーンが開示されているのであり、また、コーン自体を合成樹脂製のものとすることが周知慣用のことであることからすると、当業者がこれらから本願考案を想到することはきわめて容易であるといわなければならない。

なお、原告は、本願考案のように軸足を切損することは周知慣用のことではなく、また、第1引用例等にも開示されていない旨主張する。

しかし、埋設型のコーンの場合、コンクリート硬化後、セパレータのコンクリート表面から突出している部分を打ち落とすことが周知慣用のことであることは、原告も認めて争わないところである。そして、原告の主張するように、セパレータと軸足とは厳密には異なる部材であるとしても、第1引用例記載の考案のコーンを埋設型のものとするときは、その軸足に相当する、コンクリート表面から突出する段部及びねじ部(別紙図面2第3図の2及び5の部分)を打ち落とす等して除去すべきことは当然の処置であり、第1引用例に原告主張の点の開示がない(再使用するため非埋設型を採用したのだから、その点の開示がないのは当然である。)ことは、本願考案の想到の容易性を肯定するについての妨げにはならない。

また、本願考案の効果として原告が主張する点は、全て、第1引用例記載の考案のコーンを周知の非埋設型で合成樹脂製のものとしたことから当然に生じる効果にすぎず、何ら格別のものではなく、この点から本願考案の想到の困難性をいう原告の主張は理由がない。

5  以上のとおり、本願考案は第1引用例ないし第4引用例及びコーン自体を合成樹脂製のものとするという周知慣用の事項から当業者が容易に考案をすることができたというべきであり、審決の判断に誤りはない。

第3  よって、審決の違法を理由のその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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